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2019.11.10 SUN - 読書ブログ

加工中等核燃料とは?未だに原子力安全神話に基づいた会計処理がされている原子力事業

電力会社ではプルトニウムが資産計上されているが、高速増殖炉もんじゅが破綻した今、これはどうなっていくのだろうか?そんな疑問を感じた。この前、烏賀陽さんと松本さん(烏賀陽さんの京都大学時代の友人)と3人で12時間以上ぶっ通しで話していた時に出た話題の1つ。この話を真面目に考えていくと「原子力電気事業が経済の論理だけではなく核兵器の安全保障という軍事にも絡んでいる」という現実を直視せざるを得なくなる。

「電力会社ではプルトニウムが資産計上されているが、高速増殖炉もんじゅが破綻した今、これはどうなっていくのだろうか?」

これをもう少し専門的に言うと

「電気事業会計規則によって資産計上される加工中等核燃料が負債に計上されるとどうなるのだろうか」

と言う疑問になる。

電気事業会計規則というのは通産省が昭和40年6月15日に定めたもの。これは簡単に言うと電力会社はこの規則に従って会計処理しなさい、と定めたもの。その中で「加工中等核燃料」という会計項目がある。

電気事業会計規則より


加工中等核燃料とは電気事業会計規則によると「加工工程にあるものを整理する。ウラン精鉱代、減損ウラン代、プルトニウム代、半製品核燃料代、転換代、濃縮代、成型加工代等を整理する」と書いてある。



つまり、プルトニウムなどはこの法律によって会計上「資産計上」されている。ただのゴミが資産になっている。その金額実に5,365億円。なお、東京電力に次ぐ規模を持つ関西電力は4,367億円。この2つだけでも1兆円「資産」として計上されている。

東電決算資料より


まだ高速増殖炉もんじゅの嘘が機能している頃はプルトニウムが資産だと言われても嘘は押し通せた。しかし、もんじゅは「もんじゅ」の取扱いに関する政府方針平成28年12月 21日原子力関係閣僚会議において廃炉が決定している。

高速増殖炉もんじゅが破綻した今、プルトニウムは「再利用できないゴミ」として確定された。なのにも関わらず未だに資産計上されている。

これを負債として計上する場合一体どうなるだろうか。まず、正式にプルトニウムをゴミとして扱う事になるので「ゴミ処理費用」が計上されることになる。プルトニウムの半減期はプルトニウム239の場合約2万4000年。約2万4000年経ってようやく放射能が半分になる。無害化するまで一体何十万年かかるのだろうか。10万年と仮定した場合「10万年間保管する費用」が電力会社にかかることになる。

おそらく真面目に会計処理すれば電力会社は破綻するだろう。あるいは破綻せずに電力会社が真面目に会計処理して処理費用も含めて総価原価方式で電気料金を決定した場合、電気料金は一体どれくらい高くなるのだろうか。5割増し?5倍?10倍?100倍?真面目に計算すれば日本人全員のお財布を直撃し破綻するだろう。

総務省家計調査データによると世帯人数別の年間の平均電気料金は2人世帯117,960円なのでこれが5倍になったら電気料金が60万円を超えることになる。

日本が真面目にプルトニウムはゴミであると認識し、真面目に脱原発を考えるなら「今までプルトニウムなどを資産計上していたが故に安かった電気料金すら見直す」というものすごい決断をすることになる。そんなことをして電気料金が高くなったら国内の製造業の工場、サーバー事業者などは全て壊滅するだろう。

電気事業会計規則は昭和40年に作られている。日本初の商業用原子炉が昭和40年5月4日に初めて臨界に到達した。この頃から「原子力に関する嘘」を固めるための会計規則も作られて運用されている。それから50年近く。福島の原発事故が起き、もんじゅが廃炉決定してもこの嘘は続いている。この嘘に正直に向き合うコストはあまりにも大きい。

だが、烏賀陽さんの新刊本「世界標準の戦争と平和」の前書きにはこう書かれている。



冷戦終了後、安全保障をめぐる日本の言論は世界標準に追いついたのかというと、残念ながら答えはノーです。主張の内容が変わっただけで、相変わらず「現実から遊離した空論が横行している」点では、冷戦時代とあまり変わらないと私の目には映ります。戦後50年近く続いた知的空白はなかなか埋まらないようです。冷戦が終了して30年前後になるというのに、もどかしい。
安全保障について語った烏賀陽さんの新刊は「核兵器」の現実に向き合った本でもある。原子力の2大利用は「核兵器」と「原子力発電」である。日本は安全保障において空理空論を重ねてきた。

相変わらず「現実から遊離した空論が横行している」と言う点では「原子力発電をどうするのか」と言う点でも同じではないだろうか。

私は原発反対でも原発賛成でもどちらでもない。賛成と反対という前に実際のコストにまで踏み込んでちゃんと考えた シミュレーションをしてみないと何とも言えない。(おそらく踏み込んで考えた場合、反対とか賛成とか言ってる場合じゃないくらいどうしようもない現実が広がると予想される。それでも見るしかない。)

ちなみに現時点でも電気事業連合会によると再処理や事故コストなどは電気料金に反映されている。2019年3月に発表された原子力コンセンサスという綺麗なパワーポイント資料に書かれている。



そこにはこう書かれている。
再処理を施しても、発電コストへの影響はわずかです。

使用済燃料の全量を適切な期間貯蔵しつつ再処理していく場合、再処理や高レベル放射性廃棄物の処分にかかるサイクル費用は1.5円/キロワット時と試算されています。原子力の発電コスト10.1円/キロワット時に占めるサイクル費用の割合は約15%と小さいため、再処理を実施しても発電コストへの影響はわずかです。


再処理、中間貯蔵、高レベル廃棄物処理費や追加的安全対策、政策費用、事故リスクへの対応費用などは1キロワット発電するコスト10.1円あたり3.7円とされている。真面目に計算すればこの金額で終わらない。福島の原発事故の処理費用は20兆円と取りあえず言われているが、完全に元通りにすることは現時点では100兆円かけても不可能だ。

更にいえば「再処理、中間貯蔵、高レベル廃棄物処理費」も電気事業連合会によるとこのように説明がされているが明らかにおかしい。
ガラス固化体は30〜50年間冷却した後、地下300mより深い安定した岩盤に「地層処分」します。「天然バリア」である地層と「人工バリア」である金属や粘土を組み合わせた「多重バリアシステム」により、数万年以上にわたって放射性物質を私たちの生活環境から隔離することができます。
こう書かれているが絶対安全原子力神話を数十年も維持出来なかったにもかかわらず「数万年以上にわたって放射性物質を私たちの生活環境から隔離することができます」と未だに言っている。これは明らかな嘘であるがこのような嘘を前提としてないともはや原子力事業は成り立たないのであろう。(そもそも原子力事業が単純な経済ではなく安全保障において核兵器と一緒に運用されているからであり、それについては烏賀陽さんの新刊をぜひ読んで欲しい)

日本が真面目にプルトニウムはゴミであると認識し、廃炉費用やゴミ処理費用などを真面目に会計処理して処理費用も含めて総価原価方式で電気料金を決定した場合、電気料金は一体何倍になるのだろうか。

無論、費用10万年分を一括で計上するのは不可能なので年間保管料を計上するという嘘がまた使われるだろうか。その場合はゴミ処理費用の10万年ローンだ。誰が貸すのか?保証するのか?金利はどうなる?

一度計算したら知的 シミュレーションとしては非常に楽しそうだ。いや、楽しまないとやってられない。今日も読書。

烏賀陽さんが原発を取材して本を書き続け、その後に核戦略に基づいた安全保障について本を出すことは本当にリンクしている。そこまで繋げて烏賀陽さんの本を読むととても面白い。

追伸

一緒に読むとこの文章も面白い。

電力株への投資はリスクが高いと考える理由 窪田 真之 楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト
https://media.rakuten-sec.net/articles/-/2814
投資のプロが見た原発 北村俊郎 元日本原子力発電株式会社 現在は社団法人日本原子力産業協会参事
http://www.enercon.jp/%E6%9C%AA%E5%88%86%E9%A1%9E/16150/
廃炉を円滑に進めるための 会計関連制度の詳細制度設計について 資源エネルギー庁
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denki_ryokin/hairo_kaikei/pdf/005_s02_00.pdf
この文章は烏賀陽さんと烏賀陽さんの京大時代の友人の松本さんと話していた時に出た話題に基づいて書きました。



参考
世界標準の戦争と平和 烏賀陽弘道
https://www.amazon.co.jp/dp/4594082335/
電気事業会計規則
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/electric/summary/regulations/pdf/kaikeikisokuyouryou.pdf
東京電力決算書 2019年3月決算短信
http://www.tepco.co.jp/about/ir/calendar/pdf/1903q4tanshin-j.pdf
関西電力決算書 2019年3月決算短信
https://www.kepco.co.jp/ir/brief/earnings/2019/pdf/pdf2019_04_04.pdf
「もんじゅ」の取扱いに関する政府方針 平成 28 年 12 月 21 日 原子力関係閣僚会議
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/genshiryoku_kakuryo_kaigi/pdf/h281221_siryou2.pdf
原子力コンセンサス 2019年3月
https://www.fepc.or.jp/library/pamphlet/pdf/04_consensus.pdf
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清水 有高Yukou Shimizu

ビ・ハイア株式会社 代表取締役

一月万冊 清水有高(しみずゆうこう)滋賀県出身。元不登校児、母子家庭育ち。ビ・ハイア株式会社代表取締役。滋賀県立大学人間文化学部卒業。ベンチャー役員、上場企業役員などを経験しコーチ、投資家、経営者として活動中。東京大学を始め各種大学でも講演多数。コーチングと読書を経営に活かし営業利益1億円以上、自己資本比率70%の会社を経営。8年間でスタッフ1人あたりの営業利益を100倍以上にする。

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